【初心者必見】LIMSの始め方と使い方
- LIMSとは何ですか?
- どのようなメリットがありますか?
- どのように始めたら良いですか?
研究室や分析センターでは、効率的なデータ管理と実験プロセスの最適化が求められています。
その中で、LIMS(ラボ情報管理システム)は欠かせない存在となってきました。
LIMSは実験データの追跡や管理、品質管理、レポート作成などを効率的に行うためのシステムです。
データの品質が向上し、ラボの生産性が格段に高まります。
ですがLIMSの導入は一大プロジェクトで、分析機器の購入とは勝手が大きく異なります。
間違った方法で導入を進めた結果、プロジェクトが失敗するケースもあります。
そこでこの記事では、初めての方でもLIMSを確実に導入できるよう、基本機能から導入手順に至るまでを詳細に解説します。
この記事をご覧いただければ、「ゼロからLIMSを始める初心者の方が本当に必要な手順」が全て分かります。
ぜひLIMS導入を万全の状態で進め、プロジェクトを成功させましょう。
LIMSとは? 基本機能
LIMS(Laboratory Information Management System)は、研究室や分析センターで扱う様々な情報を管理するシステムです。基本的なLIMSの機能は次のとおりです。
- サンプル管理
- サンプルの登録、追跡、保管場所の管理。
- バーコードやQRコードを使用してサンプルの追跡を効率化。
- ワークフロー管理
- 試験の割り当てやスケジュールを管理。
- 実験のプロセスや手順を設定し、作業の進行状況を追跡。
- 効率的なタスク管理とプロセスの標準化。
- 機器連携
- 分析機器での測定結果を自動でデータベースに取り込み。
- 人手を介さず、転記ミスやデータ改ざんを防止し、作業を効率化。
- データ管理
- 実験結果や分析データを管理し、データの整合性を保持。
- データベースによる管理で、検索や再利用が容易。
- 品質管理
- QC(Quality Control)テスト結果を管理。品質基準に基づく評価。
- データの信頼性と再現性が向上。
- レポートと文書管理
- 実験レポートや規制文書の作成、管理。
- 分析結果の承認や報告を管理。
- コンプライアンスに基づく文書化。
- ユーザー管理とセキュリティ
- ユーザーごとのアクセス権を設定し、データの安全性を確保。
- 監査証跡を提供し、データの変更履歴を追跡。
各機能の詳細については、こちらの記事もご覧ください。
詳細:LIMSの基本機能:ラボ情報管理システムの必須項目9選
このような機能から、従来LIMSは医薬品メーカーや化学メーカーを中心に導入されてきました。
現在では、食品・飲料、石油、繊維、ゴム、塗料、金属、鉄鋼、環境、バイオ、研究機関など、幅広い分野で利用されています。
また上記の機能以外にも、機器や消耗品の管理、他システムとの連携など、メーカーごとに多彩な機能が用意されています。
自社のニーズに応じて、機能の要否を検討しましょう。
ラボで利用される他システムとの違い
研究室や分析センターでは、LIMS以外のコンピュータシステムも使われます。
ここではラボでよく使われる他のシステムと、LIMSとの違いを紹介します。
- クロマトグラフィーデータシステム(CDS)
- 分析機器からのデータを自動的に収集し、管理、分析、報告するためのシステム。
- 特にクロマトグラフィー(HPLC、GCなど)の分析データを扱います。
- 電子実験ノート(ELN;Electronic Laboratory Notebook)
- 研究や実験の計画・手順・結果をデジタル形式で記録、共有、管理するためのシステム。
- 科学データ管理システム(SDMS;Scientific Data Management System)
- 研究データ、特に電子ファイルを集中管理し、異なるファイル形式や機器のデータを一元的に保存、アクセス可能にします。
- データの整合性を保ち、長期的なデータ保存にも対応します。
- ラボ実行システム(LES;Laboratory Execution System)
- 実験プロセスをデジタル化し、手順に従って実験を進めるための指示を提供します。
- 実験の標準化を助け、手順の遵守を保証することで、実験の再現性と正確性を高めます。
- 製造実行システム(MES;Manufacturing Execution System)
- 製造業において生産活動を管理・最適化するためのコンピュータシステムです。
- 生産計画から製品の完成に至るまでの製造プロセスをリアルタイムで監視し、制御することが目的です。
これらはLIMSと異なるシステムです。ですが、近年はこれらの機能を併せ持つLIMSも増えてきました。
もしこれらのシステムを既に導入しているラボにLIMSを導入する場合、役割分担や置き換えも含めた検討が必要になるでしょう。
LIMS活用のメリット
ラボの業務は多岐に渡るため、LIMSを導入することで大きく効率化できます。
LIMSを活用する代表的なメリットは次のとおりです。
- データ管理の効率化
- 実験データやサンプル情報の入力、保存、アクセスの自動化
- エラーの削減とデータの整合性の向上
- 作業の標準化と品質の向上
- 実験や分析など手順の標準化
- 品質管理とトレーサビリティの強化
- コンプライアンスと監査への対応
- 規制要件への準拠の支援
- 規制当局への報告や監査に対する準備の支援
- リアルタイムなデータへのアクセス
- データのリアルタイムなアクセスと共有により、迅速な意思決定や協力が可能となります。
ここでは代表例の紹介に留めますが、LIMSを活用するメリットは他にもたくさんあります。
詳しくはこちらの記事もご覧ください。
一般的なLIMSの構成
一般的にはサーバーにLIMSを導入し、個々人のPCまたは分析機器の制御用PCからLIMSにアクセスします。
したがって、LIMSを導入する際には以下のような物理的および技術的なインフラが必要です。
実際にどのような物を準備すべきかは導入するLIMS製品によって変わりますが、事前にイメージを持っておくと計画やヒアリングをスムーズに行えます。
- サーバー
- LIMSのデータを保存し、処理するためのサーバー。
オンプレミスの場合は物理サーバーが必要になります。
クラウドベースの場合はクラウドサービスプロバイダーが提供するサーバーリソースを利用します。
- LIMSのデータを保存し、処理するためのサーバー。
- 端末
- スタッフがLIMSにアクセスし、データを入力、確認するためのコンピュータ端末。
タブレットやモバイルデバイスを併用するケースもあります。
- スタッフがLIMSにアクセスし、データを入力、確認するためのコンピュータ端末。
- ネットワーク
- 安定的かつ適切な帯域幅を持つイーサネット接続やWi-Fi環境。
- バックアップソリューション
- データの損失を防ぐため、定期的なバックアップを行うシステムが必要です。
- 外部ハードドライブやクラウドベースのバックアップサービスが利用されます。
- セキュリティソフトウェア
- データの保護とセキュリティを確保するための、ファイアウォール、ウイルス対策ソフトウェア、侵入検知システムなど。
近年はクラウド型サービス(SaaS)のLIMSも提供され始めています。この場合はユーザーがサーバーを用意する必要がありません。
いずれにせよ、これらのインフラを整えることで、LIMSの運用を効率的かつ安全に行えます。
LIMS導入の手順
LIMSの導入は大掛かりなプロジェクトのため、時間も予算も掛かります。
それにも関わらず、想定通りに進まなかったり、思っていた効果を最終的に得られないケースも少なくありません。
導入を成功させるためには全体の流れを正しく把握し、現実的な計画を事前に立てることが肝要です。
ここでは主要なプロジェクト全体を3段階(計画フェーズ、実装フェーズ、最適化フェーズ)に分けて、それぞれの概要を簡潔に紹介します。
1. 計画フェーズ
- ニーズ分析:
- ラボの現状の業務プロセスを評価し、LIMSによって解決すべき課題を特定します。
- プロジェクトチームの組成
- 関連するスタッフや部署、役割を決定します。
- 要件定義:
- 必要な機能やシステム要件を明確に定義します。「やらないこと」を決めることも重要です。
- システム選定:
- 市場調査を行い、適切なメーカーやLIMSを選定します。
- プロジェクト計画:
- 導入スケジュール、予算、リソースの割り当てを計画します。
2. 実装フェーズ
- システム構築:
- LIMSのインストール、設定、カスタマイズを行います。
- データ移行:
- 既存データの移行とその検証を行います。
- テスト:
- システムの動作テストを行い、問題点を修正します。
- トレーニング:
- スタッフに操作トレーニングを実施します。
- サポート体制の確認:
- 問題発生時の対応策や連絡手段を決めます。
- 運用開始:
- 日常業務にLIMSを組み込み、運用を開始します。
- テストで見逃した問題が運用開始後に見つかることもあるため、余裕を見ておきます。
3. 最適化フェーズ
- パフォーマンス評価:
- システムの効果を評価し、未達成の目標があればその原因を分析します。
- 継続的改善:
- フィードバックを基にシステムの改善や機能追加を行い、業務プロセスの最適化を進めます。
- 展開:
- LIMSの対象を他部署・他事業所・他業務に展開し、組織全体を効率化します。
- 更新:
- システムの性能を維持し、最新の技術や規制に対応します。
- ソフトウェアアップデート:
- LIMSメーカーから提供されるソフトウェアのアップデートやパッチを定期的に適用します。
セキュリティの強化、バグの修正、新機能の追加が行われます。
- LIMSメーカーから提供されるソフトウェアのアップデートやパッチを定期的に適用します。
- ハードウェアのアップグレード:
- 性能向上や容量拡大のため、ハードウェアをアップグレードします。
サーバーの増強やストレージの拡大が含まれます。
- 性能向上や容量拡大のため、ハードウェアをアップグレードします。
以上がLIMSを導入する際の代表的な手順です。
このように段階を分けることで、各フェーズごとに明確な目標を持ち、効率的にLIMSを導入できます。
また全体像を事前に把握することで、必要な作業の漏れを防ぎます。
ここでは全体の大まかな流れのみを紹介しました。
各フェーズの詳細については、こちらの記事もご覧ください。
詳細:【LIMS導入完全ガイド】計画~運用開始後までの全手順を詳細に解説
LIMSの応用例
LIMSは単独で使用しても強力ですが、他のツールと組み合わせると、さらに効果的に運用できます。
代表的な例としては、他のシステムとの連携があります。
例えば次のような連携は、ラボの効率化や高度化に有効です。
- 自動前処理ロボット、自動分析ロボット
- LIMSが持つサンプルや試験の情報を基に、ロボットに作業を指示します。
- 作業結果を自動的にLIMSデータベースに登録します。
- 薬品管理システム
- LIMSが管理する実験操作で薬品を消費した場合、薬品管理システムに自動的に反映します。
- 薬品の残量をLIMS上でワンストップで管理します。
- BIツール
- LIMSデータベースに記録されたデータの見える化や分析をサポートします。
- ERP
- LIMSに登録されたサンプル情報や分析結果を経営判断に活用します。
また、LIMSが収集したデータを用いて、品質管理やプロセス改善のための分析を行うこともできます。
例えば統計解析やディープラーニング、AI分析などを活用することで、これまでにない新しい知見を得ることも可能です。
LIMSの応用例に関しては、こちらの記事もご覧ください。
LIMSメーカー
LIMSを提供するメーカーは数年前まで限られていましたが、最近は選択肢も豊富です。
メーカーによって機能や実績、サポート体制等は異なりますが、代表的な企業と製品は次のとおりです。
横河電機 | Lab-Aid、CIMVisionLIMS | 国内 |
Thermo FIcher Scientific | SampleManager LIMS | 外資系 |
LabWare | LabWare | 外資系 |
Waters | NuGenesis | 外資系 |
日立ハイテク | LabDAMS | 国内 |
三菱電機ソフトウエア(LabVantage Solutions) | LABVANTAGE | 国内 |
NECネクサソリューションズ | Expert LiMS | 国内 |
宇部情報システム | QC-One | 国内 |
LIMS導入における最初の注意点
最後に、LIMSの導入において最も重要なことを1つだけお伝えします。
それは、プロジェクトをメーカー任せにせず、ラボが主体的に進めることです。
メーカーに全て任せてしまうと、想定していた機能や成果が得られなかったり、予想以上のコストが掛かったり、期限までにプロジェクトが終わらないという事態につながります。
そして、このような問題に直面する企業は少なくありません。
それは、ラボが通常購入する機器やシステムに比べると、LIMSの導入プロジェクトが遥かに難しいためです。
普通の設備投資と同じ感覚で取り組むと、失敗しやすいです。
マネジメントに長けた人がプロジェクトを主導する必要があります。
ですが、そのような経験が豊富な人がラボにいるケースは少ないでしょう。
そこで、このサイトではLIMS導入のポイントを分かりやすく解説していきます。
この記事では紙面の都合で省略した内容も、他の記事で詳しく紹介しています。
皆さまのプロジェクトが成功するよう最善を尽くしますので、一緒に学んでいきましょう。
LIMSの導入における失敗についてはこちらの記事もご覧ください。
事前に把握しておくだけで、成功確率がグッとアップします。